前回、「甘エビ」の生態について触れてきました。おさらいしてみましょう。
「甘エビ」の正式名称は「ホッコクアカエビ」といいます。
「甘エビ」の独特の甘みは、自らの筋肉を分解してできた「とろみ」に起因しています。
「甘エビ」は生まれてから2~4年は性別を持ちません。4年目頃からオスとして生存します。
そして、5~6年目くらいからメスに変換します。以上のようなことを述べてまいりました。
今回はさらに詳しく、神秘的な「甘エビ」の生態について迫ってみたいと思います。
「甘エビ」と「ボタンエビ」の違いと見分け方は?なぜ、「甘エビ」は性転換するのか?
こうした「甘えび」のように性転換する生き物も、人間同様進化して現在の姿にたどりついたはずです。
人間を除くすべての生き物は、より多くの子孫を残す目的で進化しています。
オスメス別々で生まれるより、一つの個体として成長の途中で性転換した方が色々な環境において産卵の効率がよく、多くの子孫を残すことができるためです。
「甘エビ」の寿命は10年といわれています。この間に3回産卵します。
日本海で生息した「甘エビ」は1年おきに、つまり2年に1度しか産卵しません。
とこらが不思議なことに太平洋側で生息した「甘エビ」は、毎年産卵するのです。
オホーツク海の「甘エビ」は、その両方が確認されています。
これもそれぞれの環境に伴い、産卵において多くの子孫を効率よく残す結果と考えられます。
私たちが食べているのはすべてメスの「甘エビ」!
前述したように「甘エビ」は5年目くらいから、オスからメスに性転換します。
日本では「甘エビ」の漁獲方法として、ほとんど「底引き網漁」が用いられています。
「底引き網漁」は大型の「甘エビ」を捕獲して小型の「甘エビ」は逃がすしくみになっています。
従って、網にかかる「甘エビ」は5歳以上の成熟したメスの「甘エビ」ということになります。
すなわち、私たちが食べているのは、すべてメスの「甘エビ」という訳です。
現在、日本人の「甘エビ」の年間消費量は約25千トン、我国の「甘エビ」漁獲量は5000トンです。
残りは北欧からの輸入品で賄っています。
つまり世界中の「甘エビ」を日本人が食べていることになります。
「甘エビ」が一番おいしいのは「オカマ」の「甘エビ」!
先程の述べたように「甘エビ」は5歳頃からオスからメスに変わります。
実は「間性」といって、オスからメスに変わる前にオスでもメスでもない「オカマ」の時期があります。
だいたい5歳くらいの時期です。
この頃の「甘エビ」が一番美味しいと言われています。
メスになってからだが大きくなったものも美味しいですが、産卵すると卵に栄養を持っていかれ、どうしても味が落ちてしまいます。
故に「オカマ」の時期の「甘エビ」が一番美味しいといえるのです。
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「甘エビ」以外にも性転換する魚がいる!
陸上生活する哺乳類では存在しませんが、神秘的な海中では、「甘エビ」のほかにも性転換する魚がいます。
サンゴ礁に棲む魚類を中心に、約300種いると言われています。
海中は様々な生命の源であり、多種多様な生き物が生命の営みを続けています。
当然、想像する以上の激しい生存競争の環境の中に棲んでいます。
生き物は種を受け継いでいくには、より多くの子孫を産み残していかなければなりません。
そのため効率よく、子供の数を増やすため性転換していくのです。
不思議なことに、色々なタイプの性転換がみられます。
メスからオスに変わる物を「雌性先熟」といい、主に一夫多妻制で生活する生き物に多く見られます。
大きいなオスがたくさんのメスを独占してしまうため、小さなオスは、はじかれて子孫を残すことができません。
そこで体が小さいうちはメスとして卵を産み、大きくなってからオスに性転換するのです。
逆にオスからメスに変わる物を「雄性先熟」と呼び、一夫一妻制に近い生き物です。
この場合は、体の大きいメスの方が産卵能力が高いので、小さいうちはオスとして生存し、大きくなってからメスになります。
「甘エビ」はこの部類に入ります。
性転換のタイミングは、体の成長や周囲の環境を見て判断しているようです。それぞれ代表的な魚を挙げてみますと、
「雌性先熟」 サクラダイ
生まれた時は全部メスで、成長するとオスに変わって、複数のメスと群れをつくります。
金魚、ハタダイ、マハタなどが属します。
「雄性先熟」 クロダイ
幼魚のうちはすべてがオスで10cmを超えると精子ができます。15~25cmの二年魚は、両性型です。メスに分かれます。
クマノミ、コチなどがこの部類に属します。
このように海中の生き物の生態は複雑、神秘でそれだけ、いかに生存競争が激しいかを物語っています。
最近甘エビに異変が起きている
ところが最近、「甘エビ」の性転換の実態を調査すると、異変に気づきます。
性転換する時期が異なる「甘エビ」が存在します。
2歳でオスになるはずの「甘エビ」が「早熟メス」になるものがいたりします。
原因は二つ考えられます。
一つは、水温の変化やエサの有無による自然環境の変化が「甘エビ」の生育に影響を与えていることです。
もうひとつは漁業活動に起因するものです。
一般的な「底引き網漁法」は網の目が大きく、体の大きい「甘エビ」しか捕獲しません。
よって体の小さいオスの割合が増えてしまって、オスが繁殖相手のメスを見つけることができず、思うように子孫を残せていないのです。
それではその解決策はあるのでしょうか。
一番、手っ取り早いのは獲らないことですが、需要の点からいってもそれは難しいといえます。
ならば、「底引き網漁法」とは逆に、大きい「甘エビ」を逃がしてやればいいのですが技術的に難点があります。
今、研究が進んでいるのは、体の大きいメスを捕獲して、卵から子供を人工的に育て放流する方法です。
人間の手によって変化させてしまった生態を、人間の手によって、復活させることです。
それは「甘エビ」だけの問題ではありません。「甘エビ」はほんの一例に過ぎません。海の資源は大切な海の恵みです。
これ以上、資源を減らさないように保全の在り方を考えていかなければなりません。
まとめ
神秘的な「甘エビ」の生態について述べてまいりました。
「甘エビ」は5~6歳からメスに性転換することで、我々が普段、食べているのはメスの「甘エビ」であること。
そして一番美味しいのは、5歳くらいの「間性」の「甘エビ」であること。
「甘エビ」のように性転換する生き物は約300種類存在し、その目的は子孫を残すために環境の変化に応じて進化してきたこと。
最近、温暖化による水温の上昇や、漁法による乱獲で生態バランスが崩れてきていることなどを取り上げてきました。
特に「甘エビ」に限らず海の生き物は、我々の食生活に関わる貴重な海の資源です。
我々の子孫のためにも、生態のバランスを保つために何ができるか、考えてみる必要があります。
こうして「甘エビ」の生態に触れることは、その第一歩かも知れません。
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